クーデター

2月1日、ミャンマーで軍事クーデターが起きた。軍がアウン・サン・スー・チー氏や大統領を拘束し、非常事態宣言を出して軍が全権を掌握した。クーデターを起こした理由として、軍は、11月に行われた総選挙において、不正が行われたためとしている。これに対し、市民が抗議活動を各地で行い、スー・チー氏らの解放を訴えている。
スー・チー氏は、ビルマ(現在のミャンマー)の非暴力民主化運動をけん引してきた人物である。1988年に、軍政の横暴に耐えかねた多くの人々が立ち上がり、全国的な民主化運動が起こったが、軍は武力でこれを鎮圧し、大勢が犠牲となった。それだけではなく、民主化を求め、国民民主連盟を結成したスー・チー氏の影響力を恐れた軍が、彼女を15年間自宅軟禁にした。しかしその後、非人道的な政策に対する欧米諸国の経済制裁や、民主化への内外の圧力から、2011年には長く続いていた軍政から民政に移った。その後も民主化が進み、2016年には半世紀ぶりに、文民政権が誕生した。このように順調に民主化が進んでいたミャンマーで、11月の選挙において不正があったとする軍が、クーデターを起こしたのである。
今回、軍がクーデターを起こした事は、悪いことのように見えるかもしれないが、そう考えるのは早計である。クーデター自体は、タイなどでもよくあるように、特に珍しいことはない。特に、政治家の腐敗によって起こされることが多いため、起こした方が悪いとは限らないのである。では、なぜ世界が注目しているかと言えば、今回のクーデターの原因として、選挙の不正を訴えていることにある。一部の野党と軍は、今回の選挙でルール違反が発見され、それを選挙委員会に訴えたが、聞き入れられなかったため、クーデターを起こしたとしている。まさに、時期を同じくしたアメリカの大統領選挙と同じ構図なのだ。そのため、バイデン政権は敏感に反応し、経済制裁を示唆している。
軍は、この一年の間に公平な選挙を行った後、勝利した政党に政権を渡すと宣言している。仮にこの一年の緊急事態の間に、ミャンマー軍が選挙に不正があったことを証明できれば、軍の力によって選挙の不正を正すことができるというモデルを作ることになる。これは、バイデン政権が一番困ることでもある。だからこそ、選挙の不正を調査せず、選挙の結果を尊重し、軍が関与してはならないと言ったのだろう。クーデターを批判すればするほど、自国の不正選挙疑惑が再燃しかねない状況にある。
さて、民主化運動の象徴のようなスー・チー氏であるが、75歳であるとか戦ってきた女性といったようなイメージだけで判断してしまうと、判断を間違えてしまう。彼女は、イスラム系少数民族のロヒンギャに対する非道な迫害に対し、止めさせるどころか、自分の政権になっても、さらに迫害を強めたことで、海外から相当な批判が起きている。さらに、ミャンマーの人身売買も重大な問題となっているが、解決する気配は見えない。また、スー・チー氏が国家を超越した存在を目指したことも、クーデターの原因となっている。自分の党が政権を握るも、憲法を理由に大統領を自分ではなく側近にさせ、自分は大統領よりも上の国家顧問という、選挙では倒せないポジションを作り、そこに座っていた。そこに異議を唱えた軍に対し、答えがなかったため、今回の拘束に至っている。軍のやり方にも問題があるのだが、それ以上にスー・チー氏の方にも問題があったことを理解しなければ、真実は見えてこない。
力にものを言わせていた軍事政権に対し、対抗して民主化を実現したが、いざ自分が権力の座に就くと、頼れるのは結局、権力の力だったという矛盾が露呈したような事件である。