荒れた家

『 私が小学校の時の話です。実話です。 近所にエミちゃんという女の子が住んでいました。同級生だったので、よく家に遊びに行っていました。エミちゃんの家は、お金持ちらしく、大きな綺麗な家だったし、いつも可愛い服を着ていました。エミちゃんのお母さんも、すごく美人で、物腰も優しく、お洒落で、家に行くと必ずケーキなどのおやつを食べさせてくれました。 エミちゃんは、犬が欲しかったらしく、ある日、コリー犬の子犬を買って貰っていました。 私も大喜びで、2人で名前を付けよう!っていう事になり、考えた末、2人でロンという名前を付けました。 コリー犬のロンは、すごく可愛くて、私はエミちゃんの家に行くのがすごく楽しみになりました。2人で可愛がり、ロンもすごく懐いていました。犬は、一年で成犬と同じくらい、大きくなります。イタズラも甘噛み(軽く噛んでしまう) も、始まります。 ある日、いつものように、エミちゃんの家に遊びに行くと、びっくりしました。 ロンの口を、針金でグルグル巻きに巻いてあるのです。私はすぐに、エミちゃんを大声で呼びました。ロンは、ぐったりとふせをしたまま動きません。エミちゃんが家から出てきました。 「エミちゃん!!ロンが!!口が大変!!何これ!?早く取ってあげないと!!」 私は必死でした。 ところが、予想もつかない答えが返ってきました。 「ああ、これ?仕方ないんだよ、お母さんに噛み付いちゃったから、お仕置きなんだ。お母さんがやったんだよ」 私はびっくりしました。あの優しいお母さんが??ロンの口から少し血が出てるのを見て、怖くなった私は、エミちゃんとは遊ばずに、家に走って帰りました。 次の日の朝、学校の行きがけに、すぐにロンを見に行ったんですが、 まだ針金はグルグル巻きになったままでした。私はまた怖くなって、走って学校へ行きました。 それから、私はエミちゃんの家に行かなくなりました。ただ、学校の行きがけや帰り道で、ロンをなでたり、さわったりして、可愛がっていました。針金は、3日程で外して貰ったようでした。 しばらくたって、いつものように、学校の帰り道に、ロンの所に行きました。 すぐ、おかしな事に気がつきました。ロンのしっぽに、可愛いピンク色のレースの布が巻いてあるのですが、明らかにしっぽが短いのです。よく、ドーベルマンなどは、しっぽや 耳を切って、容姿を良くしたりしますが、ロンは、普通のコリー犬。しっぽを切るなんて事、 あるでしょうか? その時、丁度エミちゃんも帰ってきました。私達は、久しぶりに顔を合わせたのです。 「エミちゃん、ロンのしっぽ、、、、、、」 エミちゃんは、またさらりと言いました。 「ああ、お母さんが、犬はしっぽが短い方が可愛いんだって。お母さんがやったんだよ。」 もう、子供心に耐え切れなくなり、私は走って家に帰ると、自分の母親にしがみついて大泣きしました。 可愛かったロンが、かわいそうで耐え切れなかったのです。 母親は私に、もうロンの所には行かないように、と言って、ずっと抱きしめてなだめてくれました。 私もその方がいいと思い、行かないようにしました。 中学生になり、エミちゃんは私立に行った為、ますます会う事が無くなり、 私もロンの事は忘れたように、忙しく中学生生活をしていました。 でも、ふと、ある日気になったんです。なぜ急に気になったかは、分かりません。 中学校からの帰り道、久しぶりにロンの所に寄ってみようと思ったのです。 ロン、元気かな、まだ私の事覚えててくれてるかな。 そして、ロンの所に着きました。 「あっ!!!!!!」 何?!この傷後!! ロンは、口の下から喉までの毛が無くなり、太い縫い傷がまっすぐ連なっていました。 何?ケガしたの?ロン!! 私が頭を撫でると、嬉しそうに、ハッハッと言います。でも、おかしいんです。少しも声が出ない。 その後、事実を知って、唖然としました。 ロンは、鳴き声がうるさいからという理由で、声帯を切る手術をしていたんです。 勿論、あの優しいお母さんの考えらしいです。 いったいロンは、何の為に飼われたのでしょう?犬にとって、吠える事は、唯一の表現方法なのに。声帯を切られたロンは、みるみる衰弱していき、間もなく死んでしまいました。 私がエミちゃんの家に行く事は、二度とありません。 』   一見、優しそうな母親のようだが、心は荒れて残酷な人柄である。この犬は、家が荒れていることを知らせにやってきたが、何も理解しない母親には、犬が荒れている、と錯覚した。その報復は、凄まじいもので、野人と化してしまっている。決して犬の視線から、物事を見ようとはしなかった。いずれ、その罰は大きなものとなって現実化する。

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