神社の排水溝

『 Hさんは三十三歳の営業マン。学生時代はバリバリの体育会系だった。お話を伺っていると、昨今のなよなよした若者を苦々しく思われているようだ。そんなHさんが三つ下の妹が妊娠したので神社にお守りを買いに行った時のことだ。千円のお守りを買い、さて帰ろうと駐車場に向かう最中、排水溝に車の鍵を落としてしまった。網目のみぞぶたの隙間から木の枝を差し込んでみたが、うまく拾えない。Hさんはしょうがなく、鉄製の重いみぞぶたを持ち上げた。落ち葉や煙草の吸殻の間に、車の鍵が落ちていた。Hさんは「嫌だなぁ」と思いつつ仕方なく地面に寝そべり、排水溝に手をつっこんだそうだ。伸ばした指先に鍵の感触はあるが掴み取れない。体を捻り、さらに右手を突っ込んだ。体勢の都合で排水溝は覗き込めないが、指は底に触れた。落ち葉をかきわけていると、突然ぐっと腕を掴まれたという。

「え、え、ちょっと」

Hさんはか細い声で呟いたという。その「何か」はHさんを引きずり込もうとしていた。変な体勢で力が入らないHさんは徐々に体が引き寄せられていく。肩まで排水溝に突っ込んだ時、Hさんは女性のように叫んだ。

「嫌だ、嫌だ! やめてぇ!」

ぱっと腕を掴んでいた「何か」は消えた。排水溝から吹っ飛ぶようにHさんは転がった。恐る恐る排水溝を覗くと、誰もいなかったという。腕にはくっきりとした痣ができていた。パニックになったHさんは神社に駆け込んだ。

「今そこのドブに悪霊がいた」泣きそうになりながら訴えたが、阿呆を見る目つきをされただけだったそうだ。

「なんていうか……強引なナンパにあって警察に駆け込んだのに、相手にされない女の子の気持ちがわかった気がするよ」

もうあそこの神社には一生近づかないよ、と最後にHさんは都内のとある神社を教えてくれた。   (「恐怖体験実話集」より) 』

 

神社には、昔から結界というものを設け、邪気が入らないようにしている筈である。高台にあるアトランティスの教会も水晶の結界をしている。

ところが、最近では神社の神主以下のものは、まるで神を信じておらず、会社の社員と同じ感覚になっている。このような者たちの集合体では、結界が何も役に立たなくなってしまう。そこに邪気は侵入し、とりわけ排水溝のような汚い場所に潜んでいる。(星椎)

 

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