生き死霊

『 「隣人はできるならちゃんと見極めた方がいい。引っ越す前に様子を伺うとか、夜にアパートの前を通ってみるとか」

私は四年前に引っ越しをした。どうしてそんな話になったのか、いまいち思い出せないのは飲みの席だったからだ。たぶん誰かが近いうちに引っ越すので、半分警告・半分笑い話で話したのだろう。

「ひどいんだよ、ほんと」

実際、酷かったのだ。深夜の二時頃になると、週に三、四回はGLAYのHOWEVERを熱唱し始める。文句を言いに行くと、意外に、心底申し訳なさそうにするのがかえって不気味だった。(これは大人しそうに見えて、人を刺すタイプ……?)

当時は悩んだものだった。場所は気に入っていたが、更新のタイミングで引っ越した。

「これで俺はもう、GLAYはダメになったよ、彼らに何の罪もないけど」

何人かは笑い、何人かは慰めてくれた。

霊感が強いという噂の女性だけが違うリアクションをとった。二回目に会う人間だったので私はいささか驚いた。

「それ、たぶん、お隣さんのお部屋に憑いてましたよ」

「隣人が幽霊ってこと?」

私は笑った。流石にそれはバカげている。

「違います。お隣さんに、何かが憑いていたんです。祟られていたんです。幽霊を一時的に退散させるには、大声で歌うことがいいんです。だからお隣さんは思いつくまま歌ったんですよ、きっと一番声が出せる歌を」

「だったら、そう言えばよかったのに」

「信じます?」

言われて考えた。信じない。確実に。

「寝入りばなに起こされて大変だったでしょうけど、きっとお隣さんはもっと大変だったんですよ」

私はビールを手酌で注ぎながら不思議と納得した気分だった。確かに風呂場でシャンプーをしている時、大声を出したくなる時がある。あれは本能的に、恐ろしいものを退散させようとする行動なのかもしれない。

そしてもう一つ。商店街で私は何度か目にしていた。隣人は冴えない男だったが、度々、髪の長い女を後ろに連れていたことを。関白亭主のように、一切後ろを振り向かないで、さも存在しないかのように。私は質問せずにいられなかった。

「引越しするときに蹴っちゃったんだよね、アパートにあった盛り塩。大丈夫かな?」

飲み会の喧騒に、その質問は飲み込まれてしまい、結局答えは得られなかった。

いまだその女性とは会えていない。 (「人から聞いた怖い話」より) 』

 

生き死霊は、本当に怖いもので、相当のパワーを持っている。霊感の強かった隣人は、そのパワーを自分の身に入らせまいと、盛り塩をして大声で叫ぶ。しかし、それは一時しのぎであり、本人は安らぐ心境ではなかっただろう。その生き死霊は、健康な時のオーラを疲弊させ、皮膚から侵入し、体の奥まで入り、彼を死へと追い込むに違いない。(星椎)

 

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