濹東綺譚(ぼくとうきだん)

深夜に目が覚め、何気なくテレビのスイッチを入れると、永井荷風の自伝小説を映画化した「濹東綺譚」が始まっていた。太宰治と仲の良かった永井荷風は、人生を斜めの視線で見る傾向があり、風変りと言えば風変りな男である。
東京の浅草界隈が、彼のテリトリーらしく、その下級な男女のあり方を一途な目で描写していた。常に束縛されたくない一心で2度の離婚を経験し、戦後の焼け野原をバックに下降線を辿ってゆく描写は、日本人にしか理解できない頽廃が存在した。ダダニズムというのはフランス映画にも時々登場するが、日本の場合は更に霊的なイメージが伝わってくる。
最期は、胃潰瘍で亡くなるが、草木が枯れるような感じで陰惨ではなかった。墓所を遊女たちと同じ場所にしてくれとの遺言は、自分の立場と霊格を高く望んではいなかったようだ。
彼は未だに成仏することなく、墓の周囲に佇み、或いは映画化された映画の中にひょっこり登場している。「自分の生きざまを参考にしてくれ」と弱くなりつつある彼の霊は訴えている。

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