小笠原

小笠原

  今年の正月に小笠原に行った。東京の竹芝桟橋から24時間かかって小笠原の父島に到着する。1週間後に東京に帰るのだが、その間、小笠原丸は停泊したままである。こんなに遠い日本の果てに来たのは初めてだった。
ちょうどアメリカから返還されて50周年という記念の日でもあった。
到着したその日は、市内観光で小さな街中をゆっくりと回った。30年前はアスファルトもなければ、信号もなかったようだ。どこを回っても戦争の傷跡は生々しかった。沈没船も多く海岸線は、その沈没船が見られる場所も多かった。
近くの島では玉砕した有名な硫黄島がある。硫黄島は、比較的平らな島だったので、アメリカ軍に占領されたが、小笠原は、その殆どがジャングルだったので攻め落とされることはなかった。観光は、その塹壕(ざんごう)を案内するらしいが、私はそれとは別の案内を選んだ。
比較的に高い展望台へ行くと島全体が良く見え、産期のためにやってくるザトウクジラの潮吹きが遠くからでも良く見えた。しかし、冬の太平洋は、波が高く常に荒れている。
観光地とは程遠い原始の世界へ来たようだった。それでも小笠原は、若者に人気があるのは、イルカと泳げる、という宣伝文句が功を奏していたからだった。
始めの1日か2日は目新しいが、その内、何もない島だと分かると、早く帰りたいと願うばかりになってゆく。現地の人は半数で、残りは国の職員ばかりである。困るのは、緊急時の病院がなく、診療所しかない。従って、重病者はヘリコプターで東京まで搬送されるらしい。
観光で丘を散策するのだが、少し奥へ行くと、憶病な日本兵の霊たちがあちらこちらで見かける。霊感の強い若者には、憑依をされて大変だろう。ここの霊の特徴は、一般の人の皮膚の奥に素早く入って、なかなか抜け出そうとしないようだ。
とにかく、2度と小笠原にはゆくことはないだろう。未だに霊たちの戦争が続いている、という島だった。